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KOKO#8 万華鏡を覗くように
Interview with "Diva"

#8 万華鏡を覗くように
Interview with “Diva“

かつて「ドイツで最も危険な通り」と呼ばれ、現在は若者や移民が集まる活気ある通りへと変貌した、ドイツ東部の都市ライプツィヒのアイゼンバーン通り。街の急激な変化に翻弄されながらも、一定のペースでどこか飄々と生きている人たちがいる。

第8回は、アイゼンバーン通りをこよなく愛する”Diva”。この通りにあるさまざまなフリースペースに出没する妖精のような彼女は、この街への不満や自身の孤独を口にしつつも、アイゼンバーン通りと運命を共にしたいと語る。
ライプツィヒは小さな街であり、行く先々で知り合いに会うことも少なくない。アイゼンバーン通りのさまざまなスペースを訪れるなかで、よく出会う人の一人が”Diva”だった。ある冬、彼女にインタビューの依頼をしたところ、家に招いてくれた。
「暖房をつけて、コーヒーを淹れて待ってるわね」
自身の背景や、ドイツへと渡ってきた家族の歴史を明かしたくないと言い、この記事では”Diva”と名乗ることを希望した。彼女の部屋は、道端で拾ってきた宝物たちで溢れている。アナログ電話やフェルトのお花、エキゾチックな柄のタペストリー。それらが、小さな空間に”Diva”だけの世界を生み出している。
「私は職人の家系なの。だから私も、自分でなんでも作るのよ」

彼女がライプツィヒに興味を持ったきっかけは、2004年ごろから「ライプツィヒが面白い」という噂を頻繁に聞くようになったからだった。
「ライプツィヒは道路も家もぼろぼろだけど、オルタナティブな文化があってクールな街だって。私が青春時代を過ごしたようなアンダーグラウンドなものがまだあるのかもしれないと思った。だから思い切って引っ越すことにしたの」
ライプツィヒへ来て最初の一年間は、ライプツィヒ西部に住んだ。そして次の引っ越し先を探している途中に、現在の彼女のお城である小さなアパートに出会った。
「あるときラベット公園を散歩していて、なんて気持ちのいい場所なんだろうと思って。周辺のアパートには小さなフランス式バルコニーが付いていて、ラブラドールを連れた人が散歩してる。そしたら、たまたま今のアパートが空いているのを見つけたのよ」

「ライプツィヒ生活に満足してるかって? そんな訳ない。私には子どもやパートナーもいないし。私の親友は私で、私の主人は私なの」
その言葉には少し孤独がにじんでいるが、彼女を取り囲む空間は、まったく違う物語を語っている。日々の中の発見、記憶、そして豊かさ。壁には、彼女自身の絵画やコラージュ作品が壁に並び、ベッドの側には世界中を旅行した若き日の”Diva”の写真が貼られている。
「たくさん旅をしてきた。ネパール、ボリビア、チリ、ペルー、スマトラ島。美しい場所、ビーチ、それからいい天気。そういうところにいつだって憧れているの」

アイゼンバーン通りで最も好きな場所を尋ねると、”Diva”はこう答えた。
「私の好きな場所は、アイゼンバーン通り113bにあったフリースペース『日本の家』(Das japanische Haus)の暖炉の前だった。薪をくべて火が柔らかく燃えていて、その周りで人々が笑っている。それを側で見ているのが好きだったの。でも、その場所はもう存在しない。ジェントリフィケーションのため移転を余儀なくされて、運良く新しい場所に引っ越せたけど、そこには普通の暖房機器しかないの。つまらないわ」
そうしたこの通りの変化に戸惑いながらも、”Diva”はここから離れるつもりはない。
「この通りにいると、いつも万華鏡を覗いているような気持ちになる。人々はモザイクタイルのように多様で、振り向けばいつも違う絵がそこにある。子どもたちは変わらず学校へ行く。街は変わっていくけれど、その精神は残り続けるってことよ。だから私もそれに従う」