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KOKO#2 本屋店主の密かな愉しみ

Interview with Karel

かつて「ドイツで最も危険な通り」と呼ばれ、現在は若者や移民が集まる活気ある通りへと変貌した、ドイツ東部の都市ライプツィヒのアイゼンバーン通り。街の急激な変化に翻弄されながらも、一定のペースでどこか飄々と生きている人たちがいる。

第2回は、アイゼンバーン通りの近くで本屋「Orinoco Books」を営むオランダ人のカレル。この場所を通して彼が目撃した、本を通したさまざまな不思議な出会いについて語ってくれた。

昼夜を問わず騒がしいアイゼンバーン通りを1本、2本と北側に行けば、そこには閑静な通りがある。その一角にたたずむのが、作家でありミュージシャンであるカレルが営む「Orinoco Books」。名前の通り「本」を扱ったお店ではあるが、ここにある本は買うこともできるし借りることもできる。古本屋とも図書館ともコミュニティースペースとも言える、静かで穏やかな空間が広がっている場所だ。

この店を2020年に始めたカレルは、10年前にアムステルダムからライプツィヒへと引っ越してきた。もともとの計画では、3カ月だけこの街に住んで小説を書くことに集中するつもりだったが、この街が気に入って残ることにしたという。

「昔から本を集めるのが大好きで、気づけばいつも自分の部屋は本だらけだったよ。Orinoco Booksを始める前、僕が住んでいたアパートの住人たちは、裏庭に行くためには僕の部屋を横切らないといけなかった。ある日、男の子が裏庭でサッカーをするために僕の部屋を通ったんだけど、その子が『ここに本屋があるなんて知らなかった』って言ったんだ。確かに自分は、本屋をやるには十分な本を持っているなって気づいたよ」

10年前のライプツィヒ東部は、どの通りにも空き物件があり、まだ何も用意されていない一角がたくさんあった。そこで何かを作ったり、プロジェクトを始めたい人が集まっている様子を見て、ここでなら自分も本屋を始めることができるのではないかと思ったという。

「いろんな人に声をかけたら興味を持ってくれて、10人くらいのボランティアのグループになり、みんなで家賃をシェアするようになった。でも人の移動も激しい街だから、半年に一度は運営チームの半分くらいが入れ替わるんだ。もちろん家賃がこれからもっと高くなって、僕らにとっても運営が大変になるのは目に見えている。ある時点でバランスが取れることを願っているけど、現実的なのかは分からないね」

Orinoco Booksの特徴は、ドイツ語だけでなくさまざまな言語の本を取り扱っているところ。フランス語やスペイン語などの取り扱いも多く、母国語の本を求めてさまざまな人がお店を訪れるという。

「本屋をやっていてうれしい瞬間は、お店に来た人が僕のお気に入りの本を買っていった時。もちろん僕からその本を勧めたりせず、その本が手に取られるのを心のうちで喜びながら、黙って見ているんだけどね」

本を読んでくつろぐためにくる人、コンサートや朗読などのイベントにくる人、注文した本を取りにくる人、世間話をしにくる人など、訪ねてくる人の理由はさまざま。しかしお店の中はいつでも静寂がただよっており、訪れる人たちは時折、ここで自分の物語を語り出すという。

「お店の窓のところに、自分の好きな詩を書いて入れるボックスがあってね。あるとき、80歳くらいの女性がお店に来たんだけど、それを見て『詩を入れていいんですか?』と尋ねてきた。『もちろん』って僕が答えると、彼女は詩を書いて入れた。それから彼女は僕に、『実は双子の妹が3日前に亡くなったの』と語り出したんだ。妹のお墓の前で読む詩を自分で選んで、お葬式の時に朗読したんだって。彼女はそう言って帰っていった。見知らぬ人のこんな話を突然聞かせてもらえるなんて。家の中にいても、そんなことは絶対に起こらないでしょ?」