#17 あとがき

Epilogue by Makoto Okajima

「KOKO」は、変わりゆく都市で暮らす人々のライフストーリーや、個人的な感情を通して、街のダイナミズムを記録するニュースレタープロジェクトです。

舞台となるのは、かつて「ドイツで最も危険な通り」と呼ばれたドイツ東部の都市ライプツィヒのアイゼンバーン通り。安い家賃に惹かれた若者や移民が集まり、ここ数年で活気のある通りへと変貌した一方で、アルコールやドラックの問題、家賃上昇や低所得者の排除など、さまざまな問題に直面しています。

最終回は「KOKO」発起人であるキュレーター・エディターの岡島真琴によるあとがきをお届けします。

たとえば書物とは「印刷物」ばかりを意味するものではなかった。街自体が、開かれた大書物であり、そこには書きこむべき余白が無限に存在していたのだ。

かつて、私は「書を捨てよ、町へ出よう」と買いたが、それは「印刷物を捨てよ、そして町という名の、べつの書物を読みに出よう」と書き改められなければならないだろう。

『寺山修司名言集 身捨つるほどの祖国はありや』寺山修司著、PARCO出版、2003年

2021年にライプツィヒに引っ越してきた私にとって、この街はまさに先に引用した寺山修司の言葉に表現されているような、わくわくさせられる場所でした。ベルリンの壁崩壊後に極端な人口流出を経験し、空き家だらけになったこの街に、アーティストや若者、外国人がどこからともなく流れ着いてくる。

なかでも「KOKO」の舞台となったアイゼンバーン通りは、カオスで問題だらけだけれど、エネルギッシュでユーモラスでどこか可愛げのある、そんなキャラクターを持ち合わせていました。

「KOKO」というニュースレタープロジェクトは、私が2022年から2024年までライプツィヒ芸術大学社会人修士プログラム「Cultures of the Curatorial」に在籍していた際に、修了プロジェクトの一環として走り出しました。この街に住んで、アイゼンバーン通りに惹きつけられてきた自分がこの場所をプロジェクトのテーマに選んだのは自然な流れだったように思います。

大学院の同級生たちが展覧会のキュレーションや、ワークショップ、レクチャーパフォーマンスなどを行うなか、編集者として働いてきた自分は、アウトプットの形として漠然と「本」をつくりたいと考えました。

そもそもライプツィヒは、第二次世界大戦以前までは印刷・出版の街として栄えた歴史を持っています。第二次世界大戦での空爆や、冷戦時代に旧東ドイツ政府によって国有化される過程で衰退してしまいましたが、印刷博物館や芸術大学、アーティストによる出版コレクティブなど、この街には今も印刷文化が息づいています。

私自身、2017年からSEA SONS PRESSという出版レーベルとしての活動も行ってきたこともあり、そんな街の歴史の延長線上に立ち、この街の記録を印刷物にしてみたいという密かな野望もありました。そのため当初は、自宅で所有しているリソグラフ印刷機を使って自分たちで印刷・製本を行い、出版することをゴールとしていました。

しかし、時期を同じくして妊娠・出産を経験しました。出産がひと段落したら印刷へ向かおうと思っていたものの、蓋を開けてみたら、乳児を抱えながら部屋いっぱいに紙を広げてリソグラフを回すのは無理だということに気づきました。

そうして考えたあげく、KOKOを「ニュースレター」という形にプロジェクトを生まれ変わらせることにしました。この街の人々に聞かせてもらったかけがえのない物語を、いち学生の卒業プロジェクトとして消費し、誰の目にも触れることなく埋もれさせてしまうことだけは絶対に避けたいと、今の自分にできる形を模索した結果が、今回皆さんにお届けしたこのニュースレターです。

当初は、自宅で印刷する手間も考えてリソグラフでの2色刷という比較的シンプルなデザインで、写真よりもイラストレーションがメインの誌面構成でした。しかし、ニュースレターという形式に舵を切るに当たり、フィルムカメラでこの街の写真を沢木傍路さんに改めて撮影してもらいました。それによって、この街や人を全然知らない読者の方々にも、少しでもアイゼンバーン通りの空気感を味わっていただけたのではないかと思います。

今年5月に日本に一時帰国した際には、京都にあるスペース「共同書庫」にて、友人のマイアミさんが企画した「われらをめぐる海」というイベントで、KOKOについてトークさせていただきました。トークの最後には、マイアミさんが魂を込めてカラム(#12)の記事を朗読してくれました。

またライプツィヒで1995年から続くフリーラジオのRadio Blauでも、KOKOについての20分以上にわたるインタビューを放送していただきました。インタビューの合間合間には、ラジオDJのヒルマーさんがKOKOの記事をたくさん朗読してくれました。どちらも、KOKOがニュースレターの外へと広がり、新しい命が吹き込まれるのを感じました。

また現在、ゲーテ・インスティトゥート東京とのコラボ企画として「Made in DDR」というコラムシリーズをインスタグラムで展開しています。ドイツ再統一から35周年を迎える今年、ライプツィヒで暮らす人々が大切にする「モノ」を通じて、現在も息づく東ドイツ(DDR)の記憶と日常を探っています。KOKOとはまた違った形で、しかしその延長線上にある物語としても、ぜひご覧いただければうれしいです。

そして当然ながら、このプロジェクトになくてはならない存在が、インタビューに答えてくれた人たちでした。ニュースレターへの変更を彼らに伝えたところ、温かい言葉をもって配信することを快諾していただきました。大切な物語を受け取るなかで、彼らはただのインタビュー対象者ではなく、自分たちにとってかけがえのない友人になってくれました。協力してくださった全ての方に、この場を借りて感謝いたします。

アイゼンバーン通りでの物語をお届けするのは今回で最後となりますが、未来に残したいと思う場所と人々と出会ったとき、「KOKO」は再び動き出すかもしれません。そのときにまた、皆さんに物語をお届けできることを楽しみにしています。

SEA SONS PRESS
岡島 真琴

KOKO

Published by SEA SONS PRESS
Curator and Editor : Makoto Okajima
Illustration and Comic : Asuka Okajima
Photograph : Sobamichi Sawaki

Special Thanks :

Martin, Karel, G, Mayuko, Tobias, Bruno, Gabriella, Alisa, Karim, Goro, Karam, Melisa, Nora, Anja, Marisa, Gisela, Jens, Keiko, Miho, Kei, Masaru, Participants and Professors of Master Course of “Cultures of the Curatorial” at the Academy of Fine Arts Leipzig, Maiami-san, Kyodo Shoko, Fabian, Hilmar, Radio Blau, Anji, Asuka, and YOU.

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